ドラマを観る

「シン・仮面ライダー」で好きな俳優が増えた。それはいいことなのだが、売れっ子なので、出演作を観ようとすると2024年1月開始のドラマだけで4本もある。観るほうも忙しい。好きな俳優(複数)におかれましては過労に気をつけてほしい。倒れたりしませんように…!

その4本というのは、「光る君へ」「消せない『私』ー復讐の連鎖ー」「厨房のありす」「アイのない恋人たち」だ。
「光る君へ」の感想は、もう少しまとまってから改めて書きたいと思う。

「消せない『私』」は高校生時代に性暴力を含む過酷ないじめに遭い両親も喪った女性主人公の復讐ものだ。復讐ジャンル自体は個人的に好みではないのだが、1話から冒頭で性暴力についての注意書きがあり、ラストのお決まりの「この物語はフィクションです」には「主人公の強い意志を描く」という文言が添えられている。注意書きはあればいいというものではないが(あったらあったで「観た人」の自己責任になってしまうという面がある)、ないよりはあったほうがいい。復讐ものだが、そういった配慮で安心して楽しめている。画も精緻だ。

「厨房のありす」は1話時点では少々つらい気持ちになった。ASDの料理人の女性主人公ありすのもとで謎めいた青年が働くことになり…というあらすじだ。日曜夜22時30分からおよそ1時間の放映なので、NHKで放映されている「アストリッドとラファエル 文書係の事件簿4」の裏番組になる。どうしてASDの女性主人公ものが裏番組どうしという構成になってしまったんだ…(どうしても比較してしまうし、マイノリティが社会に関わる物語は、存在の重みが加わるからシリーズが継続しているほうが有利に思う)と首を傾げる。1話の序盤、永瀬廉演じる倖生に、前田敦子演じるありすの幼馴染でホールスタッフの和紗がちゃきちゃきとありすの特性について説明する場面は良かったと思う。前田敦子の芝居は観ていて気持ちがいいし、これはASD全般の特性ではなくありすの場合だという台詞があること、ありすが世界に合わせるのではなく、ありすのもつ店にくわわった倖生が合わせるというのも良かった。
けれど、ありすがパニックを起こす場面がけっこう多くて、観ていて少しつらい。
個人的な事情なのだが、年をまたいで発達障害の診断待ちをしていたところ、先々週に結果が出て、ややASDの傾向があり、濃度は濃いというわけではないから全く空気が読めないというわけではないけれど、読んでストレスを起こし頭痛やらパニックやらを起こしているのでは…と精神科で説明を受けたばかりで、わたしはいま、ASD傾向の自我を少しもてあましている。パニックを起こしたありすがそのことで迷惑をかけている、と、大森南朋演じる父の心護に申し訳なさそうにするところもちょっときつい。後半、和紗の息子のために料理を作ったありすが「『普通』はすごいです」と発言しているのもちょっと…いや、だいぶきつい。
厨房のありすは公式HPの「制作によせて」でありすがASDであること、心護がゲイであることが明言されていて、それはいいことだと思っている。しかし、1話という制作サイドと視聴者に信頼関係が築かれておらず、キャラクターも見えづらい段階で非定型の発達特性のある主人公が家族に申し訳なさそうにしたり、「『普通』はすごい」と言わせるのは、あまり巧くないし、配慮もないように思う。
発達障害の当事者が家族に謝ったり、「普通」をすごいと言うことが悪いわけではない。そういうことは現実にあるだろうと思う。しかしこういう場面を必要としているのは、当事者ではなくて定型のマジョリティだろう。そういう意味で、滑り出しのきびしい1話だった。
だいぶ長くなった。まだ書き足りないのだが、この辺にしておく。

「アイのない恋人たち」は東京に暮らす7人をめぐるドラマだ。主人公の久米真和は33歳、福士蒼汰が演じている。かつて新人賞を獲得したもののその後泣かず飛ばずの脚本家で、マッチングアプリで会った異性とは3回会って別れることにしている。真和の友人で、人に合わせてしまう傾向があり、異性との恋愛に侵襲性とコストパフォーマンスの低さを感じて、あまり価値を見出していない食品会社勤務の多聞(本郷奏多)、強烈な結婚願望というか、運命の女性願望を抱く交番勤務の警察官の雄馬(前田公輝)。失恋したばかりの雄馬は下心込みで3人での合コンをセッティングしようとするが…というあらすじ。
…これ、異性愛ドラマだろうけど、それぞれ異性愛規範に振り回されるクィアっぽくね?と思いながら観ている。
フィクションのキャラクターでも「こうだから⚪︎⚪︎だろう」と読むことには暴力性はともなうが、わたしはAセクだし、クィアリーディングを信じているので────性的な関心はあるものの狭義の恋愛感情の希薄な真和も、真和の高校生時代の交際相手で、今は「略奪愛」をしてみたものの相手が深く自分にのめり込むと気持ちが冷める愛(佐々木希)も、恋愛なんてないほうが世界は平和だと言う多聞も、それぞれAスペクトラムっぽさがある、ように観える。
雄馬も、自身の欲望というより異性愛伴侶規範に振り回されているように観える。雄馬と合コンで出会った奈美(深川麻衣)もそうだ。区役所の戸籍係で毎日のように異性婚カップルに「おめでとう」と言い続け、親からの結婚のプレッシャーを感じている。
べつに結婚しなくても、異性と恋愛しなくても、とは作中のキャラクターも考えていそうではある。しかし、特定の相手と継続した交際をしないことは逃げではないし、未熟さでもない、ということを、どれくらいこの作品は描くつもりがあるのだろうか。愛は異性愛だけではないということを。
華のあるキャストが揃っていて、俳優が美しく撮られている。演出もいい。
けれど、「こういう世界で、いつまで」と思う。いい意味で裏切られることを、願っている。